民法(相続法)が40年ぶりに改正されます

平成30年7月に相続法が約40年ぶりに改正されました。
この改正の主な内容は以下の通りです。

1.自筆証書遺言に添付する財産目録の作成がパソコンで可能に
2.配偶者居住権の創設
3.配偶者短期居住権の創設
4.遺産の分割前に被相続人名義の預貯金が一部払戻し可能に
5.自宅の生前贈与が特別受益の対象外になる方策
6.遺産の分割前に遺産がが処分された場合の取り扱い
7.遺留分制度の見直し
8.被相続人の介護や看病で貢献した親族は金銭要求が可能に
9.相続の効力等に関する見直し
10.務局で自筆証書による遺言書が保管可能に

 

1.自筆証書遺言に添付する財産目録の作成がパソコンで可能に

現行法においては、自筆証書遺言は全文自筆によらなければなりません。ある財産を、特定の人に与える遺言書を作成するには、その財産を特定できるように財産の詳細を自筆で書かなければなりません。預金なら金融機関名、口座番号等を不動産なら登記事項(所在地、地目、地番、地積など)なども全部自筆によることとなります。
改正法では、パソコンで作成した財産目録(財産の特定に必要な事項)や預金通帳のコピー、登記事項証明書を添付できるようになりました。

この自筆証書遺言の緩和方式については、2019年1月13日から施行となります。

参考:自筆証書遺言に関する見直し【PDF】

 

 

 

2.配偶者居住権の創設

現行法においては、配偶者が相続開始時に住んでいた自宅を取得した場合に、自宅の評価額が大きいために、法定相続分に応ずる自宅以外の預貯金等金融資産の取得の割合が小さくなってしまい、被相続人の相続開始後に生活していく資金が不足することになりがちでした。

このような問題を解決するため、配偶者が終身または一定期間その住んでいた自宅に住み続けることができるが、他人に売ったり賃貸したりはできないという一定の権利である配偶者居住権を創設しました。
配偶者は自宅を取得した場合よりも、評価額が低く抑えられる配偶者居住権を取得することで、自宅以外の預貯金などのほかの財産も多く取得できるようになります。

配偶者の居住の権利は、2020年4月1日施行となります。

参考:配偶者の居住権を長期的に保護するための方策(配偶者居住権)【PDF】

 

3.配偶者短期居住権の創設

配偶者が相続開始時に、被相続人が所有する建物に無償で住んでいた場合に、被相続人の意思とは関係なく、遺産の分割が確定するまで、最でも6ヶ月間はその建物に無償で住み続けることができる権利です。配偶者短期居住権については、2020年4月1日から施行となります。

参考:配偶者の居住権を短期的に保護するための方策(配偶者短期居住権)【PDF】

 

4.遺産の分割前に被相続人名義の預貯金が一部払戻し可能に

改正法において各相続人は、銀行等の金融機関の窓口で、他の共同相続人の同意がなくても単独で、遺産に属する預貯金のうち一定額の払い戻しを受けることができるようになりました。払い戻しのできる預貯金の額は、各口座ごとに相続開始時の預貯金の額の1/3相当額に、各法定相続分を乗じた金額(ただし、同一の金融機関に対して150万円を限度)となります。遺産分割前の預貯金払い戻し制度については、2019年7月1日施行となります。

参考:相続された預貯金債権の払戻しを認める制度について【PDF】

5.自宅の生前贈与が特別受益の対象外になる方策

改正によって、婚姻期間が20年以上である被相続人が、配偶者に対してその居住用建物又はその敷地(居住用不動産)を生前贈与した場合においても、遺産分割の計算上、居住用不動産の持戻し計算(居住用不動産を相続財産の前渡しとして計算すること)が不要となりました。現行法においては被相続人が配偶者の将来を考えて、生前に贈与した居住用不動産も、遺産の前渡しと考え、相続でもらえる総額は変わりませんでした。今回の改正で、配偶者は居住用不動産の価額の分、他の財産の取得をすることができるようになります。この方策については、2019年7月1日から施行となります。

参考:長期間婚姻している夫婦間で行った居住用不動産の贈与等について 【PDF】

 

 

6.遺産の分割前に遺産が処分された場合の取り扱い

現行法においては、相続人の一人が遺産分割前に遺産を使い込んでしまった場合には、使ってしまった遺産を遺産分割の計算に持ち戻す(使い込み金を相続財産の前渡しとして計算すること)ことをしなくてよいため、使い込んだ相続人以外の相続人の分け前が結果として減ることになり、使い込まなかった相続人に、不公平が生ずることとなります。
改正法では使い込んだ相続人以外の全ての共同相続人の同意があれば、使い込んだ遺産を遺産分割の計算に持ち戻すことができるようになりました。これにより、使い込んだ分はその使い込みをした相続人の本来の取り分から差し引かれる(使い込み金を相続財産の前渡しとして計算する)ことになり、通常の遺産分割と同様となり、相続人間の不公平が解消されることとなります。
ただし、改正法によると「本当に使い込みがあったかどうか」という疑念が生ずる余地があるため、今後の遺産分割手続きが複雑化する懸念もあるという意見もあります。

参考:相続開始後の共同相続人による財産処分について【PDF】

 

7.遺留分制度の見直し

<10年以内の贈与のみ遺留分の算定財産の対象に>

現行法において、相続人に対する贈与※については、期間の制限なく遺留分の算定するための財産の価額に参入されています。

改正法においては、相続開始前の10年間の贈与に限定して遺留分の算定するための財産の価額に算入されることになりました。これにより、相続開始より10年以上前に相続人に贈与された財産は、遺留分を算定するための財産の価額に含まれないことになります。

※相続人に対する贈与については特別受益である贈与に限ります。特別受益とは相続人が複数いる場合に、その一部の相続人が、被相続人からの遺贈や贈与によって特別に受けた利益のことをいいます。特別受益である贈与は次の3つが該当します。

  • *婚姻のための贈与(嫁入り道具や支度金など)
  • *養子縁組のための贈与(実親が持参金として贈与する金銭など)
  • *生計の資本としての贈与(扶養の範囲を超える援助として贈与される事業資金や住宅取得資金など)

 

<遺留分の金銭債権化>

遺留分の返還を求める場合に、遺産の内容は、現預金だけではなく、不動産、投資信託など様々なので、計算が複雑になることが多々あります。

現行法では遺留分を侵害する贈与等の対象が不動産の場合には、遺留分の返還により、対象となる不動産が、贈与等を受けた者(受遺者または受贈者)と遺留分権利者の共有状態となり、その不動産の処分や利用に大きな制約を受けることとなります。
このような場合に、遺留分権利者は、受遺者または受贈者に対して遺留分の侵害を受けている部分を金銭で支払うよう請求することはできませんでした。また、現物で返還するか金銭で弁償するかは、受遺者または受贈者しか選択ができませんでした。

そこで、改正法では、遺留分返還方法については、遺留分減殺請求という形ではなく遺留分侵害額の請求(遺留分侵害額に相当する金銭の支払いの請求)という形で行うこととしました。

遺留分を金銭で返還することにより、計算も簡単で不動産が共有になることもなく、将来に問題が生じる心配も大幅に軽減されます。

遺留分制度の見直しについては、2019年7月1日から施行となります。すなわち、2019年7月1日以後の相続開始の相続が対象となります。

 

<改正による事業承継へのメリット>

遺留分についての今回の改正により、相続開始前10年前の贈与が特別受益として遺留分算定の財産の価額に含まれなくなったことで、10年を超えて事業を承継してきた後継相続人が贈与を受けた自社株や事業用資産の一部が、遺留分算定の対象とならなくなります。このことにより、後継事業者の長期的な事業継続が可能となります。

また、遺留分を金銭で返還してもらえることとなれば、被相続人が後継者に贈与をした自社株が分散してしまうというリスクも回避することができ、円滑な事業承継を図ることができます。

参考:遺留分制度に関する見直し【PDF】

 

8.被相続人の介護や看病で貢献した親族は金銭要求が可能に

現行法においては、相続人以外の人が、被相続人の介護や看病などの労務提供により被相続人の財産の維持や増加に貢献しても、その人が、その分の財産を取得するための制度はありませんでした。

改正法においては、被相続人の相続人でない親族も、無償で介護や看病などの労務提供をして被相続人の財産の維持増加に貢献(特別の寄与)をした場合、相続開始後に、相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できることとされました。
この特別の寄与をした親族を特別寄与者といい、改正法の特別寄与者となり得る親族とは、6親等内の血族と3親等以内の姻族となります。

相続人以外の者の貢献を考慮するための方策については、2019年7月1日から施行となります。

参考:相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(特別の寄与)【PDF】

 

9.相続の効力等に関する見直し

現行法では、特定財産承継遺言(遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言)等により承継された財産は、登記をしなくても第三者に対抗することができるとされていました。
改正法において、法定相続分を超える部分については登記等しなければ、第三者に対抗することができないこととなりました。

※「第三者に対抗する」とは、「(この不動産は自分のものと)第三者に主張する」ということです。

 

 

10.法務局で自筆証書による遺言書が保管可能に

自筆証書遺言については現行法において、相続開始後に家庭裁判所の検認手続きを受ける必要があります。
これは自筆証書遺言の保管についての特段の決まりがないため、遺言書の存在、内容や形状などを明確にするための検認手続きが必要とされているのです。

今回の改正において、新たに「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が制定され、自筆証書遺言について新たに法務局で保管することができるようになりました。
この制度を利用して保管されている遺言書については、検認手続きが不要とされています。
自筆証書遺言書の保管については、2020年7月10日から施行となります。

参考:法務局における遺言書の保管等に関する法律について【PDF】

 

民法(相続法改正)について詳しくはこちらから

 

 

 

2019年02月22日