家族信託

家族信託(家族民事信託)の概要

信託とは、信託をする人(委託者)が一定の方法(信託行為)により、自分の財産(信託財産)を自分の信頼できる人や法人(受託者)に託して、信託の利益を受ける者(受益者)のために、信託財産を管理・運用してもらう制度のことをいいます。

信託のうち、家族のための民事信託(家族信託)とは、委託者の家族や親族を受益者として、その受益者の幸福な生活を確保するなどの一定の目的のために、家族や親戚などの信頼できる知人に受託者になってもらい、信託財産の管理運営を委託するものをいい、基本的には、家族=受託者となります。

具体的には、年少者や高齢者、障害者などの親族である受益者に生活費や看護療養費等の給付など生活の支援をすることを委託するもの(後見型)と、委託者が自身の亡き後や適正な判断力を失った後の所有財産の管理や承継をはかるとするもの(資産承継型)があります。

この家族信託により、自身の死亡や適正な判断力がつかなくなった場合に、成年後見制度や遺言によってはできなかったことも可能となるため、近年この家族信託が注目されています。

当事務所ができること

当事務所では、家族信託制度について次の役割をお引き受けいたします。

  • 家族信託制度全般についてのご相談・アドバイス
    (家族信託制度の仕組みの説明、制度を採用すべきかどうかの助言など)
  • 「信託契約」 における公正証書による家族信託契約書の作成
  • 家族信託制度の利用に伴う贈与税、相続税の申告業務
  • 「遺言による信託」 における公正証書遺言または自筆証書遺言の作成
  • 信託法第37条(帳簿等の作成等、報告及び保存の義務)に対応した家族信託の事務処理の代行(第28条・第35条に規定する 信託事務処理代行者としての役割のうち 計算・帳簿の作成及び申告等に限る

 

信託事務処理代行者とは、信託事務の処理を受託者から委託された人です。
家族信託は、受託者に対する信頼を基礎としているため受託者自ら信託事務を行うことが前提ですが、信託事務の遂行には専門的な知識が必要なことも多く、分業化・専門化が進んだ現代社会において信託事務を受託者が一人で全て処理するということは、あまり現実的ではありません。
そこで、「契約の内容に、信託事務を委託することができる定めがあること」などの一定の場合には、信託事務の処理を第三者(=信託事務処理代行者)に委託することができると定められています。

当事務所では、信託事務処理代行者の役割のうち、その家族信託契約の定めに従い、信託財産に係る帳簿の作成、帳簿に基づく貸借対照表・損益計算書の作成、不動産等の信託財産の運用により所得税等の確定申告が必要でであればその申告業務に限りお引き受けいたします。

また、家族信託の信託財産に不動産が含まれる場合には、名義変更が必要となりますので、連携する司法書士に当事務所から依頼ができます。

なお、当事務所は信託業法の定めにより、家族信託制度における受託者としての役割はお引き受けできません。

 

 

家族信託の活用メリット

家族信託は、財産管理することに不安がある本人(委託者)に代わり、信頼おける家族や親族等(受託者)がしっかりと財産を管理し、また、後継の受益者の生活に必要な給付を確実に実行してもらう制度です。
さらに家族信託は、その制度を利用することにより、委託者の大事な財産を確実に承継をすることができるようになった新しい制度です。

信託の方法(信託行為)には

信託契約

遺言による信託

・自己信託
(委託者が自ら受託者となる信託であり、委託者が公正証書等により、自己の財産を他人のために管理処分する旨の宣言=信託宣言 を記載することによって信託を設定する方法)

の三形態があります。

信託契約

委託者と受託者との間で契約の締結によってその効力をずる信託の方法をいい、家族信託の設定の多くはこの契約(家族信託契約)によっています。

家族信託契約には、代表的なものとして次のような形態の契約があります。

ご高齢または認知症等を発症しているご本人や配偶者、病弱な子のための財産を管理するための家族信託契約(遺言代用型信託)
ご本人が健康であるときに、親族等(受託者)に財産を信託して財産管理を任せて、ご本人が生存中は「委託者兼受益者」として、その財産をご本人のために使ってもらい、ご本人が死亡した場合には、配偶者またはご子息を「死亡後受益者」とすることにより、ご本人の死亡後の財産の管理運用処分(財産給付)も可能とするものです。
この契約は「遺言者代用型信託契約」と呼ばれるものですが、利点としては次の点が挙げられます。
* 生前に死亡後の財産承継を図れること
* 生前に委託者本人が認知症等を発生した場合でも、財産管理を生前及び死亡後においても受託者に任せることができること
* 委託者の死亡後、遺言執行が不要であること(遺言書作成のための手間と費用を削減でき、相続開始後受益者となった者は信託財産からの利益を直ちに享受することができる)
大切な財産を確実に親族等につないで遺す財産承継を行うための家族信託契約(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)
後継ぎ遺贈型信託とは、ご本人が築いてきた不動産(自宅など)を、まず当初受益者である妻に自宅を利用させることとし、受益者である妻が亡くなった後の財産の帰属者や新しい受益者を定め、その者に財産を承継させて委託者の意思通りに順次承継させていくという仕組みの信託です。
新たな信託法(信託法91条)により、この後継ぎ遺贈型信託に受益者連続型信託の仕組みが加わり、これにより信託期間は、信託がされたときから30年を経過後に、新たに受益権を取得した受益者が死亡するまでとされています。
この後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、財産のみならず事業の承継や遺産の国庫帰属防止にも役立つと考えられています。

 

遺言による信託

信託行為には、信託契約のほか、遺言による信託もあります。

遺言による信託とは、委託者である遺言者、信託の方法を遺言により行うものをいいます。ここでいう信託とは、法において定められているもの(信託法3条第2号)をいい、信託銀行が顧客の遺言の作成をサポートし、その遺言の「遺言執行者」となるサービスの商品名である「遺言信託」とは異なりますのでご注意ください。

遺言の形式
信託法では遺言の方式は決まっていません。したがって自筆証書遺言でも公正証書遺言でも、遺言による信託は可能となります。
しかしながら家族信託の場合、遺言が発見されたら速やかに財産の管理(信託財産の確保)と受益者の支援が必要となる場合が多いため、迅速にかつ確実に手続きを進める必要があります。
自筆証書遺言は自筆証書遺言の説明にもあったように、原則的には家庭裁判所の検認手続きが必要になりますし、また遺言者の真意により作成されたかについて、しばしば争いが生じることもありますので、公正証書遺言により遺言による信託を行うことをお薦めいたします。
遺言による信託の活用例
遺言による信託においては、遺言の執行により信託の効力が発生することとなります。従って、あくまでご本人(遺言者=委託者)の亡き後の配偶者やご子息のための対策のための信託行為となり、生前のご本人の認知症等に係った場合の対策とはなりません。。
この遺言による信託の活用例として、以下のような信託の形態があります。
高齢の配偶者の支援等のための信託
相続が開始した時に相続させる遺言により財産が与えられたとしても、もしその配偶者が認知症である場合には財産管理ができないため、財産は凍結されてしまいます。よって成年後見人を配偶者につけてあげないと、相続財産を管理・処分できません。
このような場合に、信頼できる親族等を受託者、配偶者を受益者とする遺言による信託により、成年後見人をつける必要がなく親族間での財産管理と生活費等の給付が可能となります。
要保護者(障害者など)の親亡き後に備える信託
ご両親がご自身の亡き後に、知的障害者や精神障害者である子供(要保護者)に幸せな生活を送ってもらうため事前に設計する方法として、要保護者のための家族信託があります。
この信託の機能は次のとおりで、これらの機能を活用できる信託の方法として遺言による信託が多く採用されています。
  • 要保護者(受益者)の生涯にわたり長期的な財産管理と生活費給付ができる
  • 遺言や契約により様々な受益者保護や受益者監督の機能を整えておくことができる
  • いわゆる「後継ぎ型遺贈(受益者連続)」の機能を有している
    ※上記、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を参照

家族信託のデメリット

節税効果は特にない
贈与税や相続税は、財産を実際に取得したわけでなくても、信託財産の評価額に対する税額が受益者に課税されるため、受益者は税負担が生ずることとなります。
成年後見人制度によらないと不可能なことがある
成年後見制度は民法で身上監護が規定されていますが、信託の受託者は「身上監護権」がありませんので、子や親族ではない受託者である場合は、本人の入院手続きや施設入所手続きをすることはできません。
もしも身上監護権が必要であれば、成年後見制度を利用して、後見人として身上監護権を行使しなければなりません。
もちろん通常は、「子」や「家族」の立場というだけで入院・入所手続きをすることができるでしょうから、実質的には子や家族である受託者が身上監護面でも対応できるケースは多いと言えます。
 
 

家族信託の手続き

信託契約・遺言による信託の手続き

1.家族信託を行う目的を明らかにする
家族信託を行う目的(ご自身の認知症や病気への対策のため、認知症の配偶者に後見人をつけずに財産を残したい、財産を意思通りに順次血族に承継していきたい、など)を明確にします。
2.信託契約または遺言書の内容を決める
家族信託を行う目的に適合した契約(遺言)の内容を考えます。具体的には以下の項目について検討していくことがよいと思われます。
  • 信託の目的 
  • 委託者または遺言者(財産を預ける人)
  • 受託者(財産を預かって管理をする人)
  • 受益者(信託財産から利益や収益を享受する人)
    ※上記の後継ぎ遺贈型受益者連続信託の場合には第二受益者や第三受益者も検討が必要
  • 受益者保護関係人(必要に応じ指名)
    ※受益者が高齢、認知症、障害者等であるため、意思表示が十分にできない場合に代理の役割を担う受益者代理人・胎児など受益者が現に存しない場合の受益者の権利に関する一切の行為をする信託管理人・受益者が高齢である場合等に代わりに受託者を監督する信託監督人のことをいいます。
  • 信託事務処理代行者(必要に応じて指名)
    ※信託の事務処理を委託された人。
  • 信託財産(預ける財産)
  • 信託期間(信託契約の継続する期間)
  • 残余財産の帰属先(信託期間終了時に帰属するところ)
3.契約書または遺言書の作成
契約(遺言)内容に従い、書面にして、信託契約書(遺言書)を作成します。
家族信託契約書(遺言代用型信託契約)のひな型はこちら【PDF】
遺言による信託(要保護者のための信託)の遺言書のひな型はこちら【PDF】
4.信託契約書を公正証書にする(遺言の場合には公正証書遺言を作成)
契約書も遺言も必ずしも公正証書(遺言)にしなければならないわけではありませんが、公証人が確認するため誤りがなく、再発行も可能であり、金融機関において下記の信託の専用口座の作成がスムーズになります。
また、契約後における当事者間のトラブルが生じた場合に回避するための証拠書類にもなります。(公正証書は原本が公証役場で保存されるため偽造の恐れもありません。)※公正証書遺言のメリットについてはこちら
したがって公正証書にすることをお勧めいたします。
公正証書にするために必要なものは以下のとおりです。
  • 公正証書にする契約書
  • 委託者及び受託者の運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなどの公的な身分証明書と認印
    または印鑑証明書(発行から3か月以内のもの)と実印
  • 信託財産が不動産の場合には、登記事項証明書(不動産登記簿謄本)と固定資産評価証明書(または固定資産税課税明細書)
  • その他財産を特定できる書類(車検証・通帳・株券等)のコピーなど
  • 公証人手数料(手数料令9条)
※遺言書と異なり、公証人の先生が自宅等へ出張して作成することはできませんので、契約者(委託者)方が公証役場に行けない場合は、実印押印の委任状による代理人で対応することになります。
※契約書や遺言書作成を専門家に依頼する場合にはその作成手数料(報酬)がかかります。
5.信託財産である不動産の名義変更
信託財産のうちに不動産がある場合には、信託契約締結後または遺言執行後、すみやかに不動産の名義変更を行う必要があります。
ご本人が法務局で登記申請手続きを行うこともできますが、家族信託に関する不動産の名義変更はかなり難しいため、実務に精通した司法書士に依頼することをお勧めいたします。
当事務所ではご依頼により、提携している司法書士を紹介いたします。(当事務所が窓口となり、手続きを進めます。)
6.現金預金を管理する信託専用の口座を作る
信託財産に現預金がある場合には、契約締結後または遺言執行後、すみやかに信託財産である金銭を管理するために信託専用の口座を作る必要があります。
なぜなら受託者は、ご自身が所有する財産と信託財産とを区別して管理しなければならないからです。
また、委託者の預金口座にある現預金をそのまま信託財産として管理や運用はできないので、信託専用の口座を作り、送金する必要があります。
信託専用の口座を開設するにはメリットも様々な留意点もあるため、以下説明いたします。
  • 信託専用口座を開設するメリット
受託者が破産した場合や死亡した場合にも資産が守られる
委託者は受託者に対して財産を託しますが、この財産(信託財産)は受益者のために管理運用されるべきものであり、受託者個人の財産とは切り離されて管理される必要があります。
信託専用口座を作ることで、受託者が破産した場合にも、受託者の財産ではない信託財産(預金)を債権者にとりたてられることもなく、また受託者が死亡した場合にも信託財産(預金)は相続財産とは区別されるので、相続トラブルが発生することも防止できます。
信託口口座を開設してくれる金融機関は少ない
金融機関においては、信託専用の口座は、信託財産の管理口座として明確にしておくための口座として「信託口口座」と呼ばれていますが、家族信託専用の信託口口座を開設することができる金融機関はまだ多くなく、開設が可能な金融機関でも、預金額その他の要件により判断される場合もあるようです。
まずは開設可能な金融機関に問い合わせる
信託口口座の開設が可能である金融機関に問い合わせ、開設のための条件や必要書類を確認しましょう。準備ができたら契約締結後(遺言執行後)に信託口口座を開設して速やかに信託口口座に送金します。
もし信託口口座の開設ができないときは
金融機関の条件を具備できないなどにより信託口口座が開設できない場合には、事前に受託者名義の普通預金口座を開設しておいて、信託財産の関係以外の入出金はしないようにして管理を行います。
そして信託契約書(遺言書)には「信託専用口座」として口座番号を記載しておきます。
このようにして受託者名義の預金口座であっても、口座の中身が信託財産である現預金であることが客観的に説明ができます。
(ただし受託者が破産した場合などは、金融機関の信託口口座を開設しているより、債権者から権利を主張される可能性はないとは言えませんので、対抗できるように間違いなく自分の財産とは区別して管理を行いましょう。)

 

家族信託について当事務所にご相談ください

以上、家族信託の制度についてお伝えしてきました。

家族信託制度は、信託のしくみを利用することで、高齢者の財産管理や遺産承継を円滑に行うなどの目的のための、ひとつの方法(手段)です。家族信託についてはまだまだお伝えしきれない多様な信託の形態が存在しており、この制度については一般家庭に浸透しているとは言い難いのが現状です。

また、家族信託を選択することが、結果、後見人制度や遺言書の形態をとることなどよりも良いかどうかは、財産評価や課税の面からも考慮したうえでないと、すぐには判断はできません。
家族信託制度を利用するならば、身内の判断によるのではなく、やはり専門家の助言を求めることをお勧めします。

当事務所においては、上記家族信託の内容をご覧になってぜひ活用をご検討したいとお考えのお客様には、ご希望により、家族信託の活用についてのアドバイスをさせていただいております。
信託財産に不動産が含まれる場合には、名義変更が必要となりますので、連携する司法書士に当事務所から依頼ができます。

当事務所では、信託法37条(帳簿等の作成等、報告及び保存の義務)に対応した、家族信託の事務処理の代行も承っております。
お客様とご相談の上、納得いただける価額で別途お見積りをさせていただきます。


※ 相談のみのご依頼は有料となります。(1回2時間まで10,000円+消費税)