一目でわかる相続の各手続き

死亡届の提出
死亡届出書の用紙は、死亡診断書と死体検案書と一体となっており、死亡診断した医師に記入してもらう必要があります。そして死亡届出義務者(同居の親族等又は家主・地主等)が死亡届の署名・押印をし、死亡届と火埋葬許可申請書を一緒に市区町村役場に提出すると、市町村から火葬許可証をもらうことができます。
ただし実務上、死亡届の提出は火葬許可申請と同時に行い、火葬許可証を受け取ることが一般的なので、実際の役所への届出は葬儀社が行うことも多いようです。
死亡届は、その死亡を知った日から七日以内に提出する必要があります。(海外で死亡した場合は三か月以内)
葬儀
死亡届の受理と合わせて火葬許可証が交付されますので、葬儀を葬儀社に依頼する場合には、火葬許可証を示して葬儀の申込をします。(葬儀社への申込が早い場合にはこの一連の手続きを葬儀社に行ってもらえる場合もあります。)
火葬許可証は遺体を火葬したり、墓地に埋葬したりする際に重要な書類になりますので、大切に保管して下さい。火葬許可証を紛失してしまうと、火葬や埋葬を受付けてもらえなくなってしまいます。
葬儀の申込をしたら、速やかにお通夜や葬儀などの法要を行うこととなります。
金融機関に連絡する
相続の開始があった場合には、相続人からの申し出や、新聞の訃報欄や金融機関の他の取引先からの情報などにより、金融機関は預貯金の名義人が死亡した事実を知り預貯金を凍結(取引を止めること)します。
ただし早めに連絡しないと相続人が複数ある場合には勝手な引き出しや隠ぺいの恐れもあるため、相続が開始(死亡)したら、すぐに各金融機関に連絡して預貯金取引を止めてもらう必要があります。
しかし預貯金が凍結されれば、今度は相続人の当面の生活費、葬式費用の支払いや債務の弁済などに、金銭がある程度は必要となります。今までは遺産分割が確定するまでは相続人の単独による預貯金の払い戻しは原則禁止とされていました。
そこで民法の改正により、相続発生後の当面の支払いができるように、2019年7月から「相続された預貯金債権の仮払い制度」が始まります。この制度により、一定の金額までは相続人が単独で預貯金を引き出せるようになります。
生命保険金の受給手続き
お亡くなりになられた方が対象となっている生命保険契約がある場合には、相続開始(死亡)によって生命保険金が支払われることがあります。そこで、保険金受取人は生命保険会社に対して生命保険金の受取申請をします。
生命保険金は、みなし相続財産として原則的に遺産分割の対象となる財産とはならず、受取人固有の財産になるので、保険金受取人が単独で申請をして、受けとることができます。
保険会社に連絡をすると、必要書類の案内と死亡保険金請求書が送られてきますので、その指示に従って手続きを行いましょう。必要書類は保険会社や契約内容、死亡状況によっても若干異なりますが、主に死亡診断書(または死体検案書)、亡くなった人の住民票、受取人の戸籍謄本や印鑑証明、保険証券(契約書)などです。
年金受給権者死亡届(報告書)の提出
被相続人の年金受給停止手続き
被相続人(お亡くなりになられた方)が年金を受け取っていた場合には、被相続人の年金の受給状況、加入状況を年金手帳または年金証書で確認し、または年金事務所に問い合わせて確認しましょう。
被相続人が国民年金加入者(第1号被保険者)であれば14日以内に、厚生年金または共済年金加入者(第2号被保険者)であれば10日以内に、お近くの年金事務所または街角の年金事務センターに「年金受給権者死亡届(報告書)」を提出する必要があります。
被相続人の死亡後、停止手続きを取らないままにすると、その後も受給権利がないまま、年金を受け取り続けることになります。年金の不正受給と同様の事態となり一括返済が必要となりますので、すみやかに提出しましょう。
未支給年金請求書の提出
年金を受け取っていた被相続人が相続開始時にまだ受け取っていない年金や、相続開始日より後に振込みされた年金のうち亡くなった月分までの年金については、未支給年金として、その方と生計を同じくしていた遺族が、死亡届及び未支給年金請求書の提出等の一定の手続きをすることにより、受け取ることができます。
なお、未支給年金の請求ができる遺族は、被相続人の相続開始時に被相続人と生計を同じくしていた
①配偶者 ②子 ③父母 ④孫 ⑤祖父母 ⑥兄弟姉妹 ⑦その他の3親等内の親族等
となり、未支給年金を受け取れる順位もこのとおりとなります。
介護保険被保険者証の返却と介護保険資格喪失届の提出
被相続人が65歳以上の場合、または40歳~64歳で要介護認定を受けていた場合には、死亡日から14日以内に、死亡者の住民票のある市区町村役場に介護保険被保険者証(保険証)の返却介護保険資格喪失届を併せて提出する必要があります。
世帯主変更届の提出
被相続人が世帯主であった場合で、かつ残された世帯員が2人以上の場合には、住所のある自治体の役所の区民課、または市民課に世帯主変更届を提出します。
死亡による変更手続きの場合には世帯員が手続きを行います。第三者が手続きを行うことは出来ません。但し、世帯員の委任状があれば代理人が手続きを行うことが可能です。
届出の提出期限は死亡日から14日以内となります。
遺族年金の手続き
国民年金に加入中であった被相続人により、生計維持されていた一定の要件を満たす配偶者または子は、遺族基礎年金の支給を受けることができます。
また、厚生年金保険の被保険者であった被相続人が亡くなられた場合に、被相続人により生計維持されていた遺族は、遺族厚生年金の支給を受けることができます。
それぞれ支給を受けるためには請求手続きが必要であり、遺族基礎年金の請求書の提出先は原則住所地の市区町村役場の窓口になります。また遺族厚生年金の請求書の提出先はお近くの年金事務所または街角の年金相談センターになります。
健康保険(給付金等)の手続き
被相続人が健康保険に加入していた場合に、健康保険から埋葬を行う人に対し埋葬料または埋葬費が支給されます。支給を受ける場合には健康保険埋葬料(費)支給申請書の提出等手続きが必要なので、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合に連絡し、申請書に必要事項を記入して提出します。
遺言書の確認
まずは 遺言書を確認しましょう
49日の法要が済んだ頃から、遺産相続の手続きを開始していくことになります。
遺言書は、被相続人が自己の死後における財産処分等について法定の書式に従って作成した書面であり、被相続人の最後の思いを実現させる大切な手段であります。従って、遺言書があると基本的に遺言書の内容にしたがって遺産を分けることになりますが、遺言書がない場合には、相続人らが集まって遺産分割協議をして遺産の分け方を決めないといけません。
また、遺言書と異なる内容の遺産分割を行うには相続人全員の合意が必要となってきます。
さらに、遺言書が公正証書遺言以外の場合には、原則として家庭裁判所の検認手続きが必要となり、これにもまた時間を要します。相続税の申告は自己の相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内と期限があるため、相続手続きはできる限り滞りなく行う必要があります。
このようなことから被相続人の死亡後速やかに、遺言書が残されていないか確認しなければならないのです。
 
遺言書が保管されている場所
遺言書は、被相続人の書斎の机の引き出しやタンスの中など、自宅で保管されていそうな場所を探してみましょう。
家や事業所に金庫がある場合、銀行に貸金庫がある場合などには、その中に保管されていることもあります。
被相続人が公正証書遺言をしていた場合には、公証役場に行って申請をすると、遺言検索システムにより公正証書遺言の検索を行うことができます。また、平成30年の民法改正により新しく新設された自筆証書遺言の「保管制度」(法務局において自筆証書遺言を保管する制度、2020年7月施行)を利用している場合には、自筆証書遺言が法務局に保管されている可能性もあります。これにより確実に公正証書遺言を見つけることができるので、是非とも利用しましょう。
遺言書の検認(連携している司法書士を紹介いたします)
遺言書を発見した場合には、勝手に開封してはいけません。
公正証書遺言及び法務局における遺言書保管制度を利用して法務局に保管されていた自筆証書遺言遺言以外の遺言については、相続開始後家庭裁判所で「検認」という手続きを受ける必要があります。
遺言の執行をするには、遺言書に検認証明書が付いていることが必要なので検認手続きは非常に重要なことです。
なお、勝手に遺言書を開封したり、家庭裁判所で検認を経ないで遺言の執行をすると5万円以下の過料に処せられることがあります。
 
検認の目的は遺言書の現状を保全し、遺言書の変造や隠匿・毀損を防ぐこと
検認手続きとは遺言書について、相続開始後速やかに家庭裁判所において遺言の存在・内容・形状などを明確にしておく手続きです。したがって、遺言の効力(有効性)そのものを確定する手続きではないので、検認後でも遺言書について争われることもあります。
 
検認の申立て
検認を申し立てをするのは、遺言書の保管者または遺言書を発見した者であり、被相続人の最終の住所地の家庭裁判所において検認申立をします。
<申立に必要な書類>
1 検認申立書 
2 遺言者の出生から死亡時までの全ての戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本)
3 相続人全員の戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本)
検認を申し立てると、家庭裁判所から各相続人らに対し、検認の期日の連絡が来ます。検認を行う期日に家庭裁判所に行くと、出席した相続人の目の前で遺言書の開封と確認が行われ必要な事項について調査し、その結果を検認調書に記録します。
検認手続きが終わると、検認済証明書を発行してもらい、遺言書に添付してもらうことができます。
自筆証書遺言や秘密証書遺言は、検認済証明書がついていないと不動産などの名義書換や預貯金の名義変更などの相続手続きができないので、きちんと検認を受ける必要があります。
遺言執行(ご依頼により当事務所が受託いたします)
遺言執行、遺言執行者についてはこちらをご参照ください。
相続人調査
(お客様ご自身で行うか、または当事務所が受託いたします)
誰が相続人かわからないと相続トラブルになることも
遺言書がない場合には、相続人の話し合いにより遺産分割の方法を決めないといけません。この話合いのことを遺産分割協議と言います。
遺産分割協議には、相続人全員が参加しないといけないので、協議を行う前提として、相続人を調査する必要があります。
相続人調査とは、相続人が誰であるのかを戸籍謄本等で調べて確定する手続きをいい、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)を取り寄せて、そこから法定相続人を調べる方法により確定していきます。
たとえば、被相続人が再婚していて前妻との間に子どもがいる場合や、被相続人に認知している子どもがいる場合などには、戸籍の調査によって初めてそれらの子どもが判明することもあります。
また、子どもの認知は遺言によっても可能です。もしも遺言によって子どもの認知が行われていたら、その子どもも法定相続人となります。
相続財産の調査
(お客様ご自身で行うか、または当事務所が受託いたします)
最初に預金通帳と郵便物を探す
遺言書が残されていれば、大抵の財産の所在は明らかになりますが、遺言書がない場合にはどのような相続財産があるのかどうかがわからないと遺産分割協議を進められないので、遺産分割協議を始める前に相続財産を確定しなければなりません。
相続財産調査をするときには、まずは被相続人の自宅に保管されている財産関係の資料を探しましょう。
故人の遺産として占められるのは大きく不動産と預貯金関係です。不動産を有していなくても預貯金を有していない被相続人はいないので、まずは預金通帳や郵便物を探します。
 
郵便物が出てきたら
郵便物が出てきたら、内容を確認しましょう。銀行や証券会社、クレジット会社からの書類により財産や債務(ローン)の問い合わせ先がわかり、資料の請求もできます。
もしも不動産を所有していたら固定資産税の納付書が届きます。そこには土地の地番や建物の家屋番号も載っているので法務局で不動産登記簿謄本を取得できます。
 
預金通帳の入出金記録からも
預金通帳の口座引き落としや入金の履歴から、財産や借金が判明することもあります。たとえば毎月のクレジットカードの引き落としがあるなら、借金があるかもしれません。問合せをしましょう。
 
インターネット取引
最近はネット銀行やネット証券で取引をしている人も多いので、故人のパソコンやスマートフォンから、そのような取引の痕跡がないかを調べることも必要です。
たとえば証券会社からのメールなどが届いていたら、相続人であることを証明できれば(下記参照)、残高や利用履歴を問い合わせることができます。
 
名寄帳の取得
不動産の調査のためには、役所で名寄せ帳を見せてもらうのも一つの方法です。
名寄せ帳とは、固定資産課税台帳のことで、所有者ごとの不動産を一覧表にまとめたものであり、各市町村における固定資産課税管理のための資料です。
名寄帳には、固定資産税の納税通知書には載ってこない、固定資産税が非課税とされる不動産(公道に私道の共有持分を持っている場合のその私道部分など)や相続人の代表者以外の者に係る共有部分も、すべて所有者ごとに載りますので、相続財産を漏れなく調査することができます。
名寄帳は不動産の所在地の各市区町村の固定資産税課で交付請求書(都税事務所、市町村役場にあります。役場等のホームページで請求書の書式をダウンロードすることもできます。)及び下記の書類を提出することで取得できます。
 
相続財産の調査に何が必要か
財産の問い合わせ先が決まったら、それぞれの資料請求のために用意する書類があります。請求先ごとに異なる書類もありますが、一般的に次の書類は持参する必要があります。
  • 被相続人の死亡がわかる戸籍謄本(除籍謄本)
  • 資料の請求者が相続人であることがわかる戸籍謄本
  • 資料の請求者本人の確認資料(免許証やマイナンバーカードなど顔写真付きのもの)
  • 請求する資料の根拠となるもの(預金通帳や郵便物、固定資産税納付書など)
つまり、「被相続人の死亡」と「請求する人=相続人」であることを証明できればよいのです。請求先ごとに必要な書類は問い合わせましょう。
限定承認・相続放棄
(連携している弁護士または司法書士を紹介いたします)
借金や負債も相続の対象
相続が起こったとき、遺産の中に借金や未払いの家賃などの負債が含まれている場合があります。
相続に対象になるものは、現金預貯金や不動産などのプラスの資産であるイメージが強いですが、借金などの負債(マイナスの資産)も相続の対象になります。
 
限定承認、相続放棄により借金の相続を回避
被相続人に借金などの負債がある場合には、相続人は相続放棄や限定承認という手続きをとることで借金などの負債を負わずに済むことが可能です。
相続放棄とは資産も負債も含め、すべての遺産を相続しないことです。
相続放棄をすると預貯金などのプラスの財産をもらうこともできませんが、借金や負債を相続することも一切無くなります。相続の放棄は相続人ごとに単独でできます。
限定承認とは、相続財産から亡くなった人の借金などを精算して、財産が余ったならそれを引き継ぐという方法です。借金や負債が上回っていて余りが発生しない場合には、相続は起こりません。
よって限定承認をした場合にも、相続人は借金や負債を相続せずに済みます。
ただし、限定承認する場合には、相続人の全員で家庭裁判所に申述しないといけません。
 
相続放棄、限定承認の方法
相続放棄や限定承認をするときには、家庭裁判所へ相続放棄の申述書や限定承認の申述書を提出しなければなりません
提出先は、被相続人の最終の住所があった地域を管轄する家庭裁判所です。
提出の際には、被相続人の戸籍謄本及び住民票の除票、相続人(限定承認の場合は相続人全員)の戸籍謄本、財産目録が必要です。相続放棄(限定承認)の申述書を作成して必要書類と一緒に提出したら手続きが完了し、借金支払いをしなくて良くなります。
 
相続放棄や限定承認には期限
具体的には「自己のために相続の開始があったと知ったときから3ヶ月以内」とされています。この期間のことを、「熟慮期間」と言います。
 
相続放棄により新たに相続人となる人には連絡をする
相続放棄をすることで自分は相続人でなくなるため、借金を負うことはなくなりますが、初めは相続人でなかった後順位の人が新たな相続人になり、借金の負担を引き継いでしまうことがあります。
したがって、もし相続放棄をする場合は、トラブル防止のためにも、相続放棄をする旨を後順位の人にも伝え、その人にも相続放棄をしてもらう必要があります。
また、 後順位の人が放棄する場合も期限は変わらず3ヶ月以内なので気を付ける必要があります。
 
遺産分割協議の開始
(お客様ご自身で行うか、または当事務所がご一緒にお手伝い・アドバイスいたします)
相続人調査と相続財産の調査が終わったら、遺産分割協議を始めます。
遺産分割協議は、必ず共同相続人全員が参加しなければならず、一人でも不参加者がいた場合にはその協議は無効となります。従って相続人調査により、相続人として確定した人には、疎遠であっても連絡をして必ず協議に参加してもらう必要があります。
未成年の相続人がいて、その親も同時に相続人になっているケースでは未成年の特別代理人を選任する必要があります。相続人の中に認知症の人などがいて、自分で意思決定、判断する力が無い場合には、成年後見の申立をして、後見人をつけてもらう必要があります。
このようにして、相続人全員ですべての遺産の内容を明らかにして、誰がどの相続財産を承継するのかを決めていきます。
 
相続人が多数かつ遠方にいる場合
相続人が少数であったり、何人かいても近くに居住していて簡単に集まることができるなら、たとえば被相続人が居住していた実家などで遺産分割協議が行われることが多いでしょう。
しかし、相続人が多数で遠方に居住している人がいる場合などでは、実際に一つの場所に集まって分割協議を進めることが難しいことも多いので、そのような場合には、メールや手紙、電話などの方法を使って協議を進めてもかまいません。
ただし、遺産分割協議がととのったときに作成する遺産分割協議書には、必ず全員が署名押印する必要があります。
 
遺産をどのように分けるかは相続人全員の合意があれば自由
遺産分割協議で遺産をどのように分けるかは、相続人全員の話し合いによって合意があれば、自由に決めることができます。
例えば、
  • 配偶者に土地、子Aに建物、子Bに現預金
  • 配偶者が3/4、子が1/4
  • 配偶者にS普通預金、子にP普通預金
  • 相続人全員が均等に
  • 配偶者が全部取得して子は取得しない
など、財産を特定して分けても、割合を決めて分けてもよいし、上記の例以外であっても、どのような分け方にするかは相続人全員の意思に任されているのです。
ただし預貯金などの場合には、金額で分け方を指定すると、口座内の金額に変動があったときに困ることになるので、できるかぎり割合を使って分けるのが良いでしょう。(子AにT預金の2/3、子Bに1/3というように)
遺産分割調停・審判(連携している弁護士を紹介いたします)
遺産分割調停
相続人全員が集まって遺産分割協議を進めても意見が合わなかったり、相続人のうちの一部が遺産分割協議に参加しないこともあるかもしれません。
このような場合には協議によって遺産分割を行うことができないため、家庭裁判所において遺産分割調停を申し立てる必要があります。
遺産分割調停は相続人全員が参加する必要があり、調停では家庭裁判所の調停委員が間に入って遺産分割の話し合いをすすめてくれます。調停で相続人全員が遺産分割の方法に了承できれば、遺産分割協議が成立となり、調停調書が作成されます。
もし調停でも相続人の意見がまとまらない場合には、遺産分割調停は不成立となり遺産分割審判となります。
 
遺産分割審判
遺産分割審判とは、家庭裁判所で行われる裁判(家事審判)で、裁判官が一切の事情を考慮して、妥当な遺産分割の方法を決定する手続きになります。審判で決まった内容は、審判書にまとめられて、各相続人に送付されます。
調停調書や審判書は、不動産の名義書き換えなどの遺産分割の手続きの際に必要になります。
 
所得税の準確定申告(当事務所が行います)
相続が発生したときに、被相続人の所得税の準確定申告を行わなければならない場合があります。
所得税の準確定申告とは、被相続人が死亡した年の1月1日から死亡した日までの期間について所得税の申告義務がある場合に、相続人が代わりに確定申告を行うことをいいます。
例えば被相続人が事業を行っていた場合には確定申告をしなければならなかったのですが、その年の途中で死亡してしまうと、自分では確定申告することができなくなります。そこで、代わりに相続人が準確定申告をします。準確定申告をする場合には申告だけではなく納税の義務もあるので、課税された所得税は相続人が支払う必要があります。
また、準確定申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告納付をしなければなりません。これを越えると延滞税などが課されるおそれがあります。
遺産分割協議書の作成
(お客様ご自身で行うか、または当事務所が受託いたします)
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書は、相続人らが話しあって決めた遺産分割の方法をまとめた書類です。
遺産分割協議書が必ず必要な場合もあれば、必要ない場合もあります。
相続人が1人だけの場合には戸籍によりその旨が証明されればよいし、遺言書のとおりに遺産分割する場合には遺言書が遺産分割協議書に代用されるため、遺産分割協議書は必要ありません。
必要な場合としては主に次のケースが挙げられます。遺産分割協議書は相続人間における契約書のような役割や、遺産分割協議がきちんと行われていることを対外的に示す証明書のような役割を持つ重要な書類であるからです。
  • 不動産の名義変更(相続登記)をする場合 →法務局に提出
  • 相続税の申告が必要な場合 →税務署に提出
  • 相続人が複数で預金口座が多い場合 →金融機関に提出
  • 相続人どうしのトラブルが予想される場合 →契約書の役割
このように作成した遺産分割協議書は、相続人が個々で保管するだけではなく、相続手続きを行う場合に様々な場面で提出が要求されます。
したがって遺産分割協議書を作成する場合は、各相続人が1通ずつ保管する分と併せて各役所等に提出する必要な分も作成すると良いでしょう。
 
 
遺産分割協議書の作成方法
遺産分割協議書は、対外的に遺産分割協議の内容を詳細に証明するための重要な書類ですので次の点を考慮して正確に記入しましょう。
  • 預金口座は金融機関の名称・支店名・預金種別(普通預金か定期預金か等)・口座番号まで記載する
  • 不動産の内容は登記事項証明書(登記簿謄本)のとおりに記載する
  • 相続人全員が署名押印(実印)する
  • 死亡保険金・死亡退職金については記載しない
  • 遺産分割協議後に財産が見つかったときにどうするかを記載する
  • 複数のページにまたがるときは割り印をする
法的には押印に実印を用いるという決まりはありませんが、不動産の相続登記には実印による押印が求められますし、相続人全員の印鑑登録証明書の提出も求められるので、遺産分割協議書の作成時には、はじめから実印で押印し、全員分の印鑑登録証明書を添付しておくのがよいでしょう。
遺産分割協議書が複数のページにわたる場合には、ページとページの間に契印しなければなりません。この場合に使う印鑑は、署名押印に使ったものと同じである必要があります。署名押印に実印を使った場合には、契印にも実印を使います。
遺産分割協議書にも様々なケースがありますが、ここでは一般的なケースのひな型を用意しました。
遺産分割協議書のひな型はこちら【PDF】
 
相続財産の名義変更そのほか相続手続きを完了させる
(ご要望により不動産の名義変更については連携している司法書士を紹介、 不動産以外の相続財産の名義変更等は当事務所が受託いたします)
遺産分割書が作成出来たら、相続手続きを進めます
相続財産に土地や建物などの不動産や、預貯金口座や証券口座などの名義変更が必要な財産が含まれている場合には、これらの名義変更手続きを完了させる必要があります。
名義変更に期限はありませんが、所有者を確定し、第三者に対抗する要件を備えてトラブルを回避するためにも、名義変更手続きは遺産分割協議が確定したら速やかに行うべきでしょう。
 
不動産の名義変更(相続登記)は早めに
相続登記とは、被相続人が土地や建物などの不動産を所有していた場合に、その名義を相続人名義に書き換えることです。
遺言書や遺産分割協議書があると、法務局に一定の書類を具備して登記申請をすることで、被相続人名義から相続人名義に書き換えることができます。
この相続登記には特に期限はなく、しかも放置していたからと言って罰則もないので、相続登記をせずにそのまま放置する人も多く見られます。
しかし、不動産を相続したのに名義書換をしないと、例えば次のようなトラブルが起こることもあります。
  • 他の相続人や第三者が勝手に不動産を他人に売却したり賃貸したりしてしまう
  • 他の相続人が勝手に相続人の共有名義で登記してしまう
  • 不動産を相続した当人が死亡した場合に、次にその不動産を相続した者の相続登記の手続きが非常に複雑で大変になる
このように、不動産の相続登記をしないで放置すると、一見して誰が不動産を所有しているのかわからないので、様々ななトラブルが生じます。たとえ期限がなくても、相続登記は早めに行うことが望ましいでしょう。
遺産分割や遺言によって不動産を相続した場合には、ご要望により、当事務所において連携する司法書士を紹介いたします。
相続税申告と納付手続き(申告は当事務所が行います)
相続税の申告と納税には期限があります
遺産の相続にともない相続税が発生することがあります。
相続税には基礎控除があるので、相続財産の合計額が基礎控除までならば相続税はかかりませんが、それを越える評価額の相続財産があると、相続税の申告と納税が必要になります。
また相続税の申告に有利な規定を使うことで納税額を減らす場合にもやはり申告が必要となります。
この申告と納税には、自身の相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内という期限がありま申告だけではなく、納税も含めて10ヶ月以内に行わないといけません。
この期限を過ぎると経過期間に応じた 延滞税がかかってきて、税金はどんどん高額になっていので、期限内の申告と納税が必要です。
 
遺産分割協議が済んでいない(いわゆる遺産未分割)の場合の申告
相続税の申告期限である10ヶ月以内に遺産分割協議が整わなかった場合には、いったんそれぞれの相続人が法定相続分で遺産を取得したものと仮定をして、相続税を申告・納付する必要があります。もちろん期限内に申告納付ができない場合には延滞税もかかってきます。
遺産分割ができていないからといって相続税の申告や納付は期限を待ってはもらえません。
 
未分割で申告した場合にはデメリットも
遺産未分割の状態で相続税の申告をする場合には、配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例といった、納税に有利な規定の適用が受けられなかったり、適用が制限されたりするため、本来よりも多く相続税を支払うこととなってしまいます。
さらに遺産未分割の場合には、被相続人の預金については払い戻しができない(預金の仮払い制度を利用する分を除く)ため、納税資金は、相続人個人の預貯金により納税しなくてはなりません。
 
ただし、申告後に遺産分割協議が完了したときには、その内容に応じて更正請求という手続きをすると、遺産分割協議で決まったとおりの割合で相続税の再計算をすることができます。
未分割での申告の際に相続税を払いすぎていた相続人は払いすぎた分の税額の還付を受けることができ、足りなかった相続人は追加で税額を支払うことになります。
 
相続税を支払えない場合
金銭で一時に相続税を支払えない場合には、遺産そのものによって支払う物納を利用したり、分割払いで相続税を支払う延納という手続きを利用したりすることができます。
この制度を利用するには、手続きにかなりの時間と膨大な提出書類を必要とするため、納税資金に不安があれば早めにご相談ください。
遺留分侵害額請求(旧「遺留分減殺請求」)
(連携している弁護士を紹介いたします)
民法改正により、2019年7月1日以後開始する相続から、遺留分返還方法については、遺留分減殺請求という形ではなく 遺留分侵害額の請求(遺留分侵害額に相当する金銭の支払いの請求)という形で行うこととなり、遺留分を金銭で返還することになりました。
遺留侵害額請求における、遺留分とは、一定の法定相続人に認められる最低限の遺産の取得分のことです。
遺言などにより、最低限の取得分である遺留分を取得できなかった場合には、その法定相続人は遺留分の侵害者(取得できない原因となる者)に対して遺留分の返還を請求することができます。
この遺留分の返還請求のことを遺留分侵害請求といいます。
例えば次のようなケースが挙げられます。
  • 遺言書に「相続財産はAがすべて取得する」と書かれていたが、Aは親族以外の第三者だった。→ 相続人が他人Aに対して遺留分侵害額請求をできる
  • 生前贈与により相続人Bが被相続人の所有財産のほとんど取得し、他の相続人C、Dは遺産の取得をわずかしかできなかった。→ 相続人C、Dが相続人Bに対して遺留分侵害額請求をできる
  • 遺言により「相続人B以外の相続人CとDで1/2ずつ取得する」と書かれていたためBは遺産を取得できなかった。→ 相続人Bが相続人C、Dに対して遺留分侵害額請求をできる
このように、法定相続人にあたる人が相続財産を全くもらえず、または不当に僅少な財産しか取得できなかったことにより、通常の生活が困難になってしまう場合を防ぐため、相続人に対して最低限の財産の承継を確保する権利を法律で定めているのです。
 
 
遺留分侵害額請求ができる法定相続人の範囲
遺留分侵害額請求が認められる法定相続人とは、被相続人の「子」「直系尊属(父母等)」「配偶者」であり、法定相続人のうち「兄弟姉妹」には遺留分は認められていません。
 
遺留分の割合
基本的な遺留分の割合は以下の通りとなります。
相続人各人の具体定な遺留分を算定する場合には、その遺留分の割合に各人の法定相続分を乗じて算出した割合(同位の相続人が複数いる場合には、その人数割りを乗じて算出した割合)がその人の実際の遺留分の割合になります。
相続人
(遺留分権利者)
遺留分の割合
(遺留分権利者全員の遺留分の合計)
配偶者(または子供)のみ 1/2
配偶者と子供 1/2
配偶者と直系尊属 1/2
直系尊属のみ 1/3
相続人
(遺留分権利者)
遺留分の割合(遺留分権利者全員の遺留分の合計)
配偶者
(または子供)のみ
1/2
配偶者と子供 1/2
配偶者と直系尊属 1/2
直系尊属のみ 1/3
具体的な遺留分を算定するには、例えば相続財産が3000万円あり、配偶者と子供1人の場合には、3000万円の1/2である1500万円が両者の遺留分となり、配偶者と子供それぞれの具体的な遺留分は、1500万円に各人の法定相続分1/2を乗じて算出した750万円になります。
また、例えば配偶者と子供がなく、父母(直系尊属)のみの場合には、3000万円の1/3である1000万円が父母両者の遺留分となり、父母それぞれの具体的な遺留分は、1000万円に1/2を乗じて算出した500万円になります。
 
遺留分侵害額請求の期限
遺留分侵害額請求ができる期間は民法により定められており、被相続人の死亡と遺留分侵害の事実(減殺すべき贈与又は遺贈の事実)を知ってから1年以内です。被相続人の死亡から10年が経った場合には、たとえ遺言や死因贈与などによる遺留分侵害の事実を知らなくても、遺留分侵害額の請求ができなくなります。
 
遺留分侵害額請求の方法
遺留分侵害額の請求をする場合には、遺留分を侵害している相手に対し、確実に証拠が残るように内容証明郵便を利用して、遺留分侵害額請求書を送付します。その後に相手と交渉をすることにより、具体的な遺留分の返還方法を決定をします。
合意をすることができた場合には、合意書を作成して、その内容に従って遺留分の返還を受けることができます。
相手に連絡が取れない場合や、話し合いで合意がとれない場合には、家庭裁判所で遺留分侵害額請求調停をする必要があります。遺留分侵害額の調停をしてもお互いに合意がとれず、不成立となった場合には、地方裁判所に提起することにより遺留分侵害額請求訴訟を行う必要があります。
いずれにせよ遺留分侵害額請求には期限があり、期限を過ぎると、これらの調停や訴訟なども一切行うことができなくなるため、遺留分を侵害の事実を知ったら、まずは早めに遺留分侵害額請求書を送るようにしましょう。
手続きに不安があれば、当事務所も連携している弁護士を紹介いたしますのでご相談ください。
更正の請求による還付の手続き(当事務所が行います)
相続税には、配偶者の税額を軽減するための措置(※1)や小規模宅地の特例(※2)など、様々な軽減措置があります。
しかし、相続税の申告期限までに分割されていない財産がある場合、未分割の財産は、これらの税額軽減の対象になりません。
これらの税額軽減は、遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されるためです。
このような場合、期限内に相続税の申告を行うにあたって、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出します。
そして、申告期限までに分割されなかった財産について申告期限から3年以内に分割したときは、「更正の請求」を行うことにより、税額軽減(税金の還付)を受けることができます。
この場合、更正の請求は、分割が行われた日の翌日から4か月以内に行う必要がありますので、注意が必要です。
※1 配偶者の税額軽減
配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、1億6千万円または、配偶者の法定相続分相当額までであれば、配偶者に相続税はかからないという制度です。
※2小規模宅地の特例
個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、相続の開始の直前において被相続人等の事業あるいは居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたものについて、相続税の課税価格を50〜80%減額することができるという制度です。
 
相続の手続きには期限があります
上記の更正の請求の手続き以外にも、相続放棄や限定承認の手続き、あるいは準確定申告(お亡くなりになった方の所得税の申告)、遺留分の減殺請求など、相続に関連する手続きには一定の期限があります。
期限を過ぎると、手続きができなくなってしまったり、延滞税や加算税を課される場合もあります。
早めに、税理士等の専門家にご相談されることをお勧め致します。
特に相続税の申告は税理士のみが他人の求めに応じ、業として行うことができる業務となります。
税理士に相続の手続きを依頼するメリット